ある日のジムでの出来事。

ご存知の通り、自宅警備員としての勤務を華麗に極めていたぽろちだったが、最近は一身上の都合で自宅警備員を辞職し、自分でも驚く程アクティブになった。そう、ジムと地元のダンススクールに通い、日々、冷や汗と脇汗を流しているからだ。

飽き性で集中力が続かないぽろち。ジムでは、マシン系でひたすら自分との戦いを繰り広げるのではなく、専らスタジオレッスンに参加している。正直なところ、外国人の中に、日本人のぽろちが混じるのは気が引けるし、未だに周囲の視線が怖く、チビリそうになる気持ちだ。だが、一人で黙々と体を動かせない性分のため、誰かの監視下で活動しなければ、永遠にダイエットは成功しないだろう。

ぽろちはジムに1日2回、午前と夜のスタジオレッスンに参加している。夜は配偶者と一緒に参加するため安心感があるし、仕事帰りのイケてる男女や意識高いキラキラ学生達が真剣に汗を流しに来ているということもあり、ほとんど話しかけられずに済むし、淡々とレッスンを受ける姿勢が心地いい。

しかし、マダムが集う午前中は、そういうわけにもいかない。皆レッスンが始まる前はおしゃべり、レッスンが始まってもおしゃべり、曲と曲の合間におしゃべり、レッスン終了後もおしゃべり…とにかくずっとおしゃべりだ。ぽろちを無視してくれる分には全く問題はないが、ぽろちのことも輪に加えようとする優しいマダムもいるため、もう毎回、冷や汗と脇汗、脂汗がヤバイ。

そんな中、つい先日、事件は起きた。

ダンスのスタジオレッスンの時、固定の場所に止まらず、何故かいつも曲が変わる度に踊る場所を変える森公美子氏似のマダム(以降、公美子と呼ばせていただく)がいる。公美子は踊りに自信があるからか、とにかく人と自分の実力を比べたがるし、踊りながら大きな体で場所を横取りしてくるし、やたらと他の方の踊りを妨げるダンスをしてくる。また、大きなヒップをシェイクする姿は、なかなか高圧的で威圧感だ。

そんな公美子が、巨体を揺らして踊りながら、ぽろちの前に移動してきた。ぽろちは公美子の空気を読まない動きに困惑していたが、また次の曲が始まれば他の場所に移動するだろう…と気にしないことにした。しかし、公美子がターンを決めた直後、突然ぽろちの目の前に公美子お尻が迫ってきたのだ。

何が起こったかって、公美子は踊っている最中に足がもつれて転び、後ろにいたぽろちが下敷きとなったのだ。

公美子のお尻は固かったため、なかなか痛かったし、何より公美子は重かった。衝撃でぽろちは泣きそうになったが、転んだ張本人の公美子が子供顔負けの声で痛みを訴え泣き始めたので、レッスンは中断。数人のマダムやインストラクターは公美子の面倒、数人のマダムは傍観、ごく数人のマダムは公美子へ迷惑げな視線を送り、ぽろちに至っては公美子の泣き声に呆然としてしまった。

結局公美子があまりに痛みを訴えるため、公美子はインストラクターに連れられ、ジムの医務室へ退場。

後日公美子はなに食わぬ顔でレッスンに登場し、公美子の得意技である場所を移動しながらのダンスを披露してくれたが、心配する心優しいマダム達には「すごく痛いけど、頑張ってるわ」と悲劇のヒロインの表情で訴えていた。

ぽろちには、もう何が何だかわからない。